理容室ISHIKAWA


髪を切った。


岡山駅の西口、全日空ホテルや東急エクセルなどの高層ビルが立ち並ぶところに埋もれるようにその理容室はあった。


店はご主人と奥さん二人だけでやっているようだ。髪を切る台はふたつしかなく、しかもその台の前には洗髪する流し台がない。
店の隅の方に流し台が一つあり、そこには、昔懐かしいパロマの湯沸かし器があって、そこで洗髪するのだ。
しかもその流し台は、自分たちがつかっているハサミや剃刀、白髪染めの容器を洗うためにも使われている。


ご主人と奥さんは、絶妙のコンビネーションで二つの台に座っている客の散発をしていく。基本的には、ご主人が散髪と顔の鬚そりを担当し、奥さんが洗髪などその他のことをやるようだ。
ご主人が片方の客の髪の毛を切っていると、もう一方のお客の襟足を奥さんがそっていくといった具合だ。手が開くと、ご主人も白髪染めの容器を洗ったりしている。


お客は常連さんだけのようだ。ご主人は店をのぞきにきたお客さんに「今だと1時間くらい待つことになるから、手が空いたところで電話するよ。」といった具合だ。


そして店内は、終始和やかな岡山弁が飛び交っていた。


ご主人の散発の腕がいいのかどうかは、私にはわからない。そもそも100%満足できる髪型に仕上げる理容師なんてそうそういるもんじゃないと思う。
手際は決して悪くはないのだが、かなりゆったりとした雰囲気で作業を進めている。まるで自分自身でも髪を切ることを楽しんでいるように。
少なくともQBハウスのような時間が追われているような動作ではない。


昭和時代にタイムスリップしたかのような、リラックスタイムを満喫することができた。